ギドク曼荼羅
キム・ギドク最新映画 「絶対の愛」公開記念として
このイベントが決まった時点で版権問題のあったデビュー作品「鰐」を除く、
全ての作品が短期間で上映された。
題して『スーパー・ギドク・マンダラ』
ギドク作品にハマっている私は、既に観ている「サマリア」「うつせみ」「弓」以外の全作品観ることに。
3週間という、ちょっと長いスパンでの自分への誕生日プレゼントと称して。
全作品レイトショーで、私が行った回は毎回ほぼ満席。
ギドク作品に興味を持っている人がこんなにいるのかと思うと、
会場中の人が同志に見えてくる(笑)
◆ 春夏秋冬そして春 (2003年作品)
人の一生を四季にたとえて描いた物語。
湖に浮かぶお堂と四季の景色は、
地上のものとは思えないほど、静かで綺麗な風景。
猫を優しく抱きかかえ、その尻尾での写経。
「閉」という字を書いた紙を、目鼻耳口に貼り付けて
この世から立ち去る老僧。
氷で彫り出す仏像。 など・・・
物語を通して全てのシーンが印象的。
言葉で表すのがもどかしいほど。
『欲望は執着を生み、執着は殺意を呼ぶ。
だから持っているものを手放さねばならぬときがある』
この言葉のとおりになってしまったけれど
後に、欲望を手放し穏やかになる。
人間の“業”は繰り返される。
でも、それが人間なんだろうな。
キム・ギドク。
素晴らしい才能。
◆ コーストガード (2002年作品)
韓国の海岸線には北朝鮮からのスパイ侵入を防ぐため
軍が監視している区域がある。
誤認で民間人を撃ってしまった軍所属の男と、
恋人を殺されてしまった女。
二人の狂気がどんどんと軍内部にも浸透していく…
人を殺したことのない人間が軍に入り(韓国は徴兵制度あり)、
敵と見たら即刻撃てと訓練を受ける。
正当防衛で撃ったとしても衝撃は強いのに、ましてや誤認となれば
尚更、殺してしまったことへの恐怖が心を支配するのではないかと思う。
どちらが正気で、どちらが狂気か?
◆ 悪い男 (2001年作品)
“純愛”物語です。
街なかで、女子大生ソナに一目惚れしたヤクザのハンギは突然、ソナの唇を奪う。
怒ったソナに侮辱されたハンギは彼女を罠にはめ、娼婦として売りとばしてしまう。
えぇ?これが純愛?! と思うでしょ。 ここまででも充分ヒドイ話だし(笑)
でも、ここはギドク監督!
細やかな描写や設定でプラトニックを増幅させ
エンドロールまでには純愛へと昇華させてしまう。
観終わったあとは切なく、でも穏やかな気持ちになる。
◆ 魚と寝る女 (2000年作品)
静かな湖面に浮かぶ釣り小屋。岸と小屋へ客を送迎しながら食べものを売ったりバッテリーや生活品などを運び、小屋の管理をしている女。
浮気した恋人とその相手を殺し、自分も死のうとこの釣り小屋に来た青年。
想像を絶する表現は、時に痛々しく(というより、激痛!)時に孤独を募らせる。
性的なイメージを抱かせる“水”
そして、人間の残酷性や自然現象による汚物。
浄化させる“水”ではなく、全てを取り込む“水”
この作品の“水”は女性を象徴しているように思う。
これは、世界にキム・ギドクを知らしめた作品なのだそう。
確かに。想像力が違う。
◆ リアル・フィクション (2000年作品)
日本初公開。
35mmカメラ8台とデジタル・カメラ10台を駆使し、
撮影時間わずか3時間20分!という、常識外の映画。
公園で肖像画を描いて商売している青年は、自分をカメラで取り続けている少女の後についていった先で、自分の中の溜まった怒りを噴出させる見えないスイッチを押され暴力性が目覚める。
そして、今まで憎んできた者へ青年の復讐が始まる。
理性という機能に抑えられ、オトナシクしている暴力性は
人間の中に必ずある影の部分。
でも大概の人々は想像にとどめて、実行はしない。
それに焦点をあてて、観ている者に内なる影を認識させる。
そしてエンディングのどんでん返し。
そうだ。“リアル・フィクション”だった・・・。
◆ 受取人不明 (2001年作品)
幼い頃に事故で右目を失った少女。
学校に通わず、肖像画作成の店で働く青年。
米国へ帰ってしまった夫に届かぬ手紙を書き続ける母と
ハーフに生まれたことにより不当な扱いを受ける青年。
そして、犬商人。
三人の若者の悲しみを軸に、その中のささやかな光と愛を描き
痛み続ける魂が観客を取り巻く。
エンドロールが流れる頃には、遅れてきた希望と絶望と霞のような光がまぜこぜになって覆いかぶさってくる。
◆ ワイルド・アニマル (1997年作品)
日本初公開。
パリを舞台に、美術の勉強に来たはずが悪の道にはまっていく韓国人青年と、真面目で体力資本しか持たない北朝鮮の脱走兵が、ひょんなことから出会い奈落へ堕ちてゆく。
実際、パリに美術留学していたことがあるギドク監督のセンスが
劇中に出てくる絵画や船のアトリエなどに表れている。
凍った鯖で女を殴るシーンや、その鯖に刺されて死んでしまう男など
ちょっとビックリな発想も監督らしいんだけど、
なんだか手放しで賞賛できないんだなぁ・・・
友情とか、人を思う優しさとか、他のギドク作品にもあるような共通項はあるけど私にはあまり、あとに何か残ることが無かったからかな。
美的感覚のある監督だから“画”は素晴らしいところもあったんだけど・・・。
でも、初期の作品を観れてよかった。
◆ 悪い女〜青の門〜 (1998年作品)
劇場未公開。
町から漁港へ流れ着いた娼婦。
性に対して嫌悪感をあらわにする娼館の娘。
家族や恋人までもが娼婦の魅力に吸い寄せられていき
娘は娼婦を蔑み辛くあたる。
やがて、娼婦の・・・たぶん、女としての心の痛みを理解しだす娘は
共感という枠よりももっと近い距離の場所に立つ。
ギドクは男性と女性の心、両方をもっているのではないかと思わせる。
「悪い男」とは別の暖かさが、じんわりと心に広がる。
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現在、版権問題の解決したギドク監督デビュー作「鰐」は
4月下旬公開予定。
もちろん、観に行くぞ===3